ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

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イヌセンボンタケ(Coprinellus disseminatus)- 松江城マッシュルームマップ -

 エドガー・アラン・ポーの短編に「群集の人」というものがある。

 

ずいぶん昔に読んだ作品なので詳細な内容まではっきりは覚えていないが、群衆の中にいることでしか心が満たされることのない男の話で、なんだかちょっと切なさもありつつ、とらえどころのない恐怖や不条理さが混ざり合ったような話で、ぼくはずいぶん気に入って何度か読み返した覚えがある。

 

ちなみにぼくはといえば、群れているものはたいがい苦手である。

 

群衆にはじまり、動物や昆虫が群れている光景を見るのは、モノにもよるが心地よいとは感じないタイプの人間である。もちろん群衆の中に入るのは、もっと苦手。

 

けれど、このきのこを見つけた時には嫌悪感どころか、ちょっとした感動を覚えた。人間なんていい加減なものだ。

 

というわけで、今回のハンティングきのこは「イヌセンボンタケ」である。

 

松江城マッシュルームマップ - イヌセンボンタケ -

 

ハラタケ目ナヨタケ科Coprinellus属のきのこで、学名を「Coprinellus disseminatus」、漢字で書くと「犬千本茸」である。

 

時に千本近い群れをなして生え広がることを特徴とするきのこで、食毒はないとされているが、非常にもろく触っただけでも崩れ落ちてしまうため食用には向かないとされている。

 

名前の由来はといえば、役に立たないもに対する日本語の名前の付け方に起因しているようで、おそらくは「犬のように役にも立たないのに大量に生えやがって」というところから来ているようだ。

 

犬はずいぶん賢い動物だし、狩猟民族からしてみれば非常に重要なパートナーだと思うのだけれど、農耕民族であった古来の日本人は、犬を役立たずとして見ていたのであろうか。綱吉が生類憐れみの令の際に大量の犬を保護して、けっきょくは犬奉行などと呼ばれてバカにされていたことにもそんな様子は伺えなくもない。

 

そう考えると、きのこなのにそんな変な名前を付けられていることにちょっと同情してしまう。

 

近頃のぼくは、きのこには大変やさしいのである。

 

 

 

モルグ街の殺人・黄金虫―ポー短編集〈2〉ミステリ編 (新潮文庫)

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月白貉