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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

はじまり

小説 小説-吸血鬼

サンライズ出雲で東京に降り立った朝、その薄汚れたホームには浦島さんがただひとり、笑顔で待ち構えていた。

 

はじまり

 

「おかえりなさいと言ったほうが正しいでしょうな、

 

待ちくたびれましたよ白酒さん、ずいぶんとゆっくりな足での到着じゃありませんか、いやいや失礼、あなたにそんな皮肉を言うつもりではなく、言うなれば私なりの冗談です、昔から上品な冗談というものが苦手でして、そんな冗談を日常的に使うような生き方を長らくしてこなかったものですから、気分を害したなら謝らせてください。」

 

浦島さんは上下おそろいのアディダスの黒いジャージという姿で、ブランドのよくわからない真っ黒いニット帽に深々と頭を潜らせていた。そんな出で立ちの浦島さんを見るのは後にも先にもこの時だけだった。

 

「ぼくはいつだってゆっくりな足です、ご存知でしょう。

 

サンライズ出雲はいくぶん優雅ではあるけれど、それほどゆっくりなものではないですよ、もっともっとゆっくりでもよかったのですが、浦島さんの手紙にはそんな悠長な時間軸の話は書かれていませんでしたからね、もちろんぼくの解釈でしかありませんが。」

 

浦島さんの左の口角が少し上昇する。

 

「左様、お話が早いですな、ではそのずいぶんな覚悟とともにさっそく参りましょうか、改めまして、おかえりなさい白酒さん、ご承知のとおり、この東京にこれから待ち受けているものは、あなたの言うサンライズ出雲の優雅さとはまったく無縁のものですが、それでも、それを承知で来てくれたあなたに、私はとても感謝しています、言葉では言いつくせないほどの感謝を。」

 

 

 

 

寝台特急「サンライズ出雲」の殺意 (新潮文庫)

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月白貉