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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

あさひるばんごはんの朝の部分 - きみぼくめし番外

子どもの頃からずっと、ぼくの家では朝ごはんっていうものがずいぶんイイカゲンな扱いだった。

 

たぶんあまり料理をしなかった母がイイカゲンだったんだろうと思う。

 

家は両親共働きで、食事のほとんどを祖母が作っていた。祖母は料理がとても上手な人で、もちろん食べることが好きな人だった。だからお昼ごはんや晩ごはんは一部の例外をのぞいてはずいぶんきちんとした食事が食卓に並んだ。大正生まれの人だったので、昔ながらの料理はもちろん、自分で料理教室にまで通ってモダンな料理にも果敢に挑戦していた。伝統的な郷土料理から中華料理や西洋料理、ピザやミートローフや、ケーキやパイや、なんでも作ってしまった。料理に関してはとんでもなくパワフルな祖母だった。でも祖母は、何をしているのかは知らなかったが、晩年まで毎日ずいぶん夜更かしな人で、そうなればもちろん朝が苦手だった。だからぼくの朝ごはんは、記憶している小学生の頃から母が作っていた。

 

ぼくが小学生の頃、アニメや漫画で見る朝ごはんってものは、白米にお味噌汁に漬物に焼き魚や目玉焼きなんかの、いわゆる和定食的なものだった。

 

でも、ぼくの母の作る朝ごはんはなんだがすごい簡易的なものだった。

 

インスタントパックを使ったお茶漬けだったり、ごはんにインスタントのふりかけをかけたものだったり、バター醤油かけごはんだったり、なんだかもう五秒くらいで出来上がってしまう子供だまし的な朝ごはんだった。他の家庭の朝ごはんってものを知らない間はそれでも十分満足していたのかもしれない。だけれど、そのくらいの時期の子どもはいろんなものを見たり聞いたりして、いろんなことを知ってゆくのだ。

 

その頃の家庭の事情をぼくはあまり詳しく知らなかったから、今となってはなんとも言えない。母にもなにか事情があったのかもしれないけれど、でもぼくは、いわゆる典型的な朝ごはんを知った日から、へんてこな簡易朝ごはんじゃなくて、日本の風情が漂う和定食的な朝ごはんを渇望する日々を送っていた。

 

でも結局、母がそういう朝ごはんを作ることは、ぼくが家を離れる日まで一度もなかった。

 

ちなみに祖母が一度だけ、泊まりに来たぼくの友だちのために遅い朝ごはんを作ってくれたことがあったが、ホテルで出てくるような衝撃のおしゃれモーニングだった。

 

トーストとカリカリベーコンとスクランブルエッグ、トマトとキュウリとレタスのサラダ、そしてコーヒー。たしかフルーツまでついていた。祖母の朝ごはんはこんなすごいんだと、たぶん友だちよりもぼくのほうが衝撃を受けたのを覚えている。その時家に泊まった友だちはぼくが毎日こんなおしゃれモーニングを食べていると思ったに違いない。いやいやぼくが食べていたのは、レンジでチンしたバター醤油かけごはんですよ、タキザワ!と心のなかで親友タキザワにつぶやいた。

 

だからぼくは、そういう簡易朝ごはんの呪縛を抜けだしたくて仕方がなかったから、ひとりで暮らし始めてからは、とっても朝ごはんを大切にしている。もちろん、ごはん全般的に大切にしているけれど、やっぱりそういう経験をしてきたぼくにとって、若干屈折してはいるかもしれないけれど、朝ごはんってものは大切なのだ。

 

何が何でも豪華で整った朝ごはんを求めているわけではない。

 

その時の状況にあわせてで、あるものでもいい、ただできるだけ、朝ごはんという時間を、なんの混じりけもなしにしっかり持ちたいのである。「いただきます。」と「ごちそうさま。」の間の時間をしっかり噛みしめたいのだと思う。お味噌汁と白いご飯だけでも十分なのだ。ただ、ちゃんとそれを噛み締めて味わう時間がほしいというだけのことだ。

 

幼少期のぼくの朝ごはんには、その部分が欠落していたんだと思う。

 

いまの生活では、のっぴきならない事情がない限り、出来るだけきちんとした朝ごはんの時間を噛みしめるようにはしている。

 

そしてやっぱり朝は、お米とお味噌汁と漬物がぼくはいちばんだと思う。トーストとコーヒーの朝ごはんも嫌いではない、ただ願わくば、人生最後の日の朝ごはんは、温かいごはんと豆腐とネギとワカメの味噌汁に埋もれて、その渦に巻き込まれて死んでゆきたいと思う、今日このごろである。

 

きみぼくめし番外 - あさひるばんごはんの朝の部分 -

 

 

 

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月白貉