ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

follow us in feedly

明
明

足留め布袋【其ノ参】- 松江百景

松江百景、「足留め布袋」の続きの続きを話すことにする。ちなみに前回までのあらすじは書かないので、前回と前々回を読んでいただきたい。

 

「・・・まあ数日は用事もあったから、休みの日にもう一度そのお家に行ったわけです。

 

松江百景 - 足留め布袋 -

 

それでね、まあそのお家に伺いまして、ご主人に話を聞いたわけなんだけれども、その神様の入れてあった蔵は土蔵でね、それで状態はまだまだそれほど悪くはないんだけれども、まあもう取り壊すことにしたんだそうです。

 

ご主人も高齢だし、まあなかなかその後の管理やらもねえ。それでってことでまあいくつかの私みたいな業者のところに蔵の中のものを処分してもらおってことで声がかかるんだけれども。それでね、まだ蔵は取り壊されていなかったんだけれども、もうある程度日取りなんかも決めてしまっているようで、私が行った時にも、さっき言ったけれど、もうほとんど買うものがないような状態だったくらいだから、後の残りは蔵を壊すときにでも一緒にゴミとして持って行ってもらおうってことで、私が行った数日後くらいから家族でちょとずつ片付けをやられていたそうなんです。

 

それでね、ちょうど電話があった日ですよねえ、ご主人が蔵の裏手に回ると、布袋と猩々がね、蔵の壁に顔をくっ付けるようにして地面に置いてあることに気がついて、で私が前回のときにいた、あれはお孫さんやらだろうか、その若いものに聞いたら私が買っていたったものだってことがわかって、忘れていったんだろうってことで、電話を頂いたんだそうですよ。

 

で、そのままに置いてあるからって案内されましてね、その時はさすがにちょっと見るのが少し怖くてねえ、でも見てみたら、うちに置いてあったあの布袋と猩々ですよ、いや〜、驚いたねえ、頭がおかしくなったのかと思ってねえ。それでもまあ、あまり本当のことが言えなくて、だけど気になるからご主人にこれはどんなものなんでしょうかって聞いたわけですよね、でもねえ、ご主人もよくわからないって言うんですよねえ、こげなもんが蔵にあったかいねえっていってらして。まあそれからちょっとお茶をよばれまして、世間話なんかしてねえ、

 

まあそれでもって、持ち帰ってきたわけなんですが、帰りに電話したら連れが怒ってねえ、そげなものようもう見られんって、うちには置いておかないでくれって、だからね、ここはうちが持ってるアパートなんだけれど、自宅は別でしてね、仕方がないから持って帰って来たその日からこちらに置くことにしたんです。それでその日はこのガレージの下のそこあるでしょ、端のところね、ちょうどあの下のところ、そこに置いて家に帰ったんですよ、そしたらねえ、びっくりしたことにまたなくなってね!もうこれは連れにはよういいませんで、それでもまさかと思ってそのご主人にね、先に私から電話したんですよ、まあまさかとは思うでしょ。

 

うっかりしどうしで、また置き忘れてってねえ、なかったらどうにでも話せるからねえ、そしたら見てくるって言ってねえ、しばらくしてご主人から電話があったんだけれど、笑いながら言うんですが、あんた肝心のものまた忘れなさったのかって。もうこれは、ちょっと真剣に自分が忘れていて持って帰って来ていないんじゃないかと、ボケたのかということが怖くなりましてねえ。

 

で、けっきょくもう一度取りに行きまして、私がおかしいのかどうか今でもよくわかりませんけれども、私がおかしくないんだったら、あれは勝手に動いてどこかに行きますんで、きっと、だからねえ、ああやって上に置いています。で、落ちてきたら危ないから柵をね。まあ、あとはあれです、あれがないと動いて逃げますでしょ。」

 

ここ最近で聞いたどんな話よりもエキサイティングな話だった。しかし、最初に言っていた猩々は・・・と思い、ぼくはちょっと怖くなったけれど聞いてみると。

 

「いなくなりました。」とだけ言っていたが、その時だけ顔が笑っていなかったので、ちょっとゾッとしてしまった。布袋と猩々を天井の出っ張りにのせた後は、もうその神様二人がなくなることはなかったらしいのだが、もうそんなことをちょっと忘れかけていた頃に、猩々だけどこかにいなくなったという。

 

いやはや文章に起こしてみるとずいぶん長い話だった。どれだけこのエキサイティングさと不気味さが伝わるか不安ではあるが、ひとまずお話はここまでで終りである。

 

というわけで、今回の松江百景、「足留め布袋」、命名はぼくで、逃げてしまった猩々はどうなったのかしらないが、布袋だけ足留めを食らっているみたいなので、そう呼ぶことにした。

 

ちなみに、神様二人を買い取ったお家のご主人から、再び電話がかかってくることは今のところないとのことだった。

 

猩々はどこにいったんだろう。

 

 

 

猩々 (観世流特製一番本(大成版))

猩々 (観世流特製一番本(大成版))

 

 

 

 

月白貉