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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

足留め布袋【其ノ弐】- 松江百景

松江百景

松江百景、「足留め布袋」の続きを話すことにする。

 

松江百景 - 足留め布袋 -

 

「・・・そしたらね、その数日後になくなってるんですよ、布袋様と猩々が。

 

だから、あれっと思って、連れがね捨ててしまったんじゃないかと思って慌てて聞いてみたら、いくらなんでもだまってそんな捨てたりはしないってことでして、まあそりゃあそうだと思ってね。じゃあどこに行ったんだろうってことになりまして、まあいちばん最初に考えるのは盗まれたんじゃないだろうかってことですよね。でもねえ、そんな小さなものでもないし、それに見えにくい場所に置いてあったんでねえ、誰かがふらっと来てね、あの二つの神様の焼き物だけ盗んでいくかなあということですよ、普通に考えればねえ。だって外に出した途端ですから。そうそう数日後って言うのはね、私が用事で出雲の方へね出てたんですよ、泊まりで。だからね、出した途端になくなったんじゃないかと思って。」

 

聞けば聞くほど引きずり込まれてゆく話である。

 

「なんだかこのあいだ月照寺には泥棒が入って、賽銭箱ごと壊されてお金を全部取られたって話だし、車で賽銭箱に突っ込んで壊したらしいですよ、ひどいことするよねえ。

 

神社とかお寺さんにもねえ、このごろ泥棒が入るからセコムをつけることにしたなんて、松江なんかでもこの頃聞くんだけどねえ、うちはそういうのじゃないし、ああいうのはどっかあれでしょ近所の泥棒じゃなくてね、悪い骨董屋なんかが古い仏像を盗みに別の県とかから来るんだろうねえ。」

 

そして男性は「うちも骨董屋だけどね、そんなもの盗んでも海外に持っていかなきゃ店には出せないからさ!」と言って笑った。ぼくはもう一度布袋の像を振り返り、改めてたずねてみた。

 

「あの布袋の話ですよね、戻ってきたんですか?」

 

「そうそう、ここからだよ、時間大丈夫?」と言われたのでぼくは頷いた。

 

「で、そういうことで、まあ泥棒じゃないだろうけれど、どうしたのかって探しまわってもやっぱり見つからないんですよ、見つけようがないものね。そしたらね、その次の日に、あの布袋を買ってきたお家のご主人から電話があったんですよ。買っていった布袋と猩々を忘れていっていますよって!そんなことはないよねって連れと驚いてね、私はもう爺さんだけれど、まだボケてないですから。だって家に置いてあったから、それはじゃあ二人してもうボケてるのかって笑ったら、連れは怖い怖い言い出してねえ、あんなものもういらないから持って返ってこないでくれって。」

 

この辺りから最初に男性が言っていた「よく逃げまして」という言葉の意味がわかりだしてきた。軽いつもりで聴き始めた話がとんでもない方向に進みだしているのだが、どうも話を聞いている感じからあまり嘘を言っているようには思えなかった。

 

「もしかしたらね、別の布袋様と猩々があって、ご主人がそれと間違えているのかもしれないでしょう、だってねえ。

 

私が行った時には他には布袋やら猩々やらはなかったんだけれど、まあでも確かめてみたいと思いましてね、だからまあご主人には、うっかりしていましたって言って、取りに伺いますって電話ではお話してね、本当のことをいうとボケ老人だとおもわれるでしょ、ねえ。ご主人のほうが私よりお年寄りだから、もしかしたら向こうがねえってこともね、ははは、そんなこと言ったらいけんね。まあ数日は用事もあったから、休みの日にもう一度そのお家に行ったわけです。」

 

聞いてきた話をそのまま書いてみているので、ずいぶん短い時間だったように思ったのだが、けっこう長かったのだなあと今になって思う。

 

そして更に話は続きます、またもや小休止である。

 

 

 

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月白貉