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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

足留め布袋 - 松江百景

松江百景

とある小さなアパートの階段付近に布袋様の像が置かれている。いつもいつも気になっていたので満を持して見に行ってみる。

 

というわけで、今回の松江百景は「足留め布袋」である。

 

足留め布袋

 

布袋といえば七福神のメンバーでもおなじみの、背中に担いだ大きな袋と、はだけた着物からのぞかせるキュートなお腹がトレードマークのあの神様、あの人である。

 

ご存じない方が多いかもしれないが、布袋は七福神の中で唯一実在した人物、元々は人間だった人が神様として崇められているケースである。

 

ぼくの知っている範囲で簡単に説明をすると、布袋ちゃんは確かもともとはある中国の僧侶で、みすぼらしい姿をして毎日毎日大きなズタ袋を引きずって街を歩き回っていたそうである。なかば乞食のような風貌だったため、街の人々がその姿を見かねて食べ物やら何やらを差し出すと、布袋ちゃんはその場ではもらったものに一切関心を示さず、すぐにそのズタ袋にもらったものを放り込んで、また歩き出すのだという。何かをもらうたびに袋に放り込むので、その袋は山のように膨れ上がっているのだけれど、布袋ちゃんはその山のようなズタ袋をズリズリと引きずって毎日毎日街を歩き回るのだという。しばらくすると、布袋ちゃんにものをあげるとご利益があるという噂が広まりだす。だから街の人々はこぞって布袋ちゃんにいろいろなものを差し出すのだけれど、やはりそれには一切関心を持たない布袋ちゃんはすぐに袋に放り込んで、また歩き出すのだ、さらに山のように膨れ上がったズタ袋を引きずりながら。

 

いつしか、あの人は神様なんじゃないかと言われだし、今に至るという話である。

 

ずいぶん前に何かの本で読んだ話なので、細かな部分は若干違うかもしれないが、だいたいそんな話である。

 

昨今の日本の都市部でもそういう人ってたまにいる。東京のどこだったか場所は忘れたが、あるパチンコ屋の駐輪場にパンパンに物が入ったスーパーのビニール袋が何百個も括りつけられた自転車がとめてあった。

 

どうやら近隣では有名なホームレスのおじさんの愛車らしいのだが、ぼくがその自転車を見かけた時には本人はいなかった。

 

その後知った話なのだが、そのホームレスのおじさん(なんて名前だったか忘れちゃったけれど)に道で出会うとご利益があるというのである。

 

ああ、なるほどなあと思った。布袋と同じように、いわゆる「流行り神」というやつだろう。

 

さて、話が大幅にそれたのでもとに戻すことにする。

 

その布袋は車庫のような場所の天井付近の壁の出っ張りの上に置かれていて、周囲を簡易的な鉄柵のようなもので囲まれている。見ようによってはいろいろな意味で不自然なシチュエーションである。ちょっと高い場所にあるので、どこか写真を撮るのにいい場所はないかなあと探していると、初老の男性が背後のアパートの階段から降りてきて「なにをしているの?」と声をかけられた。

 

ぼくが布袋の像が気になるので写真を撮ろうと思いましてとこたえると、

 

「ああ、あれねえ、なかなかいい布袋でしょう。うちが骨董屋でね、旧家の蔵にあったものをずいぶん前に買い取ってきたものだけれど、まあそんなに古いものでもないし、それと私が気に入ったから店には出さないで飾ってるんですよ、ただねえ、よく逃げましてねえ。」

 

「えっ??」

 

しばらく話を詳しく聞くと、ただの布袋像ではなかった。

 

「あるお家の蔵をね、もう壊すゆうことで依頼を受けてまあ古道具やらなんやらを買い取りに行ったんですわ。そしたらねえ、言うたらまあもういい品物はね、ほとんど整理してしまっていてあまりなかったんだけれど、その中にいくつかね、焼き物の神様がおりまして、まあそれも買い取ってきたんです。

 

そのひとつがあの布袋様でね、脇にね隙間があるでしょ、あそこにね猩々がおったんです、猩々言うたらわかるかなあ?」

 

ぼくは、「はい、知っています、七福神に数えることもある猿みたいな神様ですよね。」とこたえると、男性は「そうそう、よく知ってるねえ!」とにこやかに笑って話を続けた。

 

「そんでその、布袋様と猩々とがまあ蔵にあって、ずいぶん気に入りましてね、まあそんな高いもんでもなさそうだし、私が家にね飾っておいてたんです。買い取った時にはその家のご主人さんが不在でして、若い人しかおりませんでね、由来を聞いてもよくわからないということだったんでね、詳しいことは知らないんですが、そんでまあその二つを最初は家の中に飾っていましたら、私の連れがね、気持ちが悪いから外に出してくれって言うわけですよ、とくに猩々が気持ちが悪いからって。」

 

ぼくは一度振り返って布袋様を改めて見てみたが、確かに笑い顔は若干薄気味悪い気もするが、それほど嫌なものを感じる雰囲気はなかった。そういう嫌なものが、ぼくにはけっこうわかったりするのである。

 

「私にはなんにも気持ち悪いようには思わなくて、まあちょっと喧嘩なんかなったりしてね、まあでもじゃあ玄関先の脇のちょっと陰になっているところにでも置こうかとおもってね、外に出すことになったんですよ。そしたらね、その数日後になくなってるんですよ、布袋様と猩々が。」

 

もうちょっと話が続くので、ちょっと小休止である。

 

 

 

布袋寅泰 GUITAR WORKS COMPLETE FILE (GUITAR MAGAZINE SPECIAL ARTIST SERIES)

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八百万の神々の謎 (祥伝社黄金文庫)

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月白貉