ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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どこにもたどりつかないバス

バスに乗って家に帰る夢を見た。

 

どこにもたどりつかないバス

 

このバスはちゃんと目的のバス停を経由するバスだろうか、料金はいくら掛かるのだろうか、そもそも間違った方向に行くバスに乗ったんじゃないか。

 

そういう不安いっぱいで、運転手のすぐ後ろの座席から身を乗り出して、ずっと次の停車場所の表示と料金表を凝視している夢だった。

 

その不安に耐え切れなくなって、バスの運転手にぼくはたずねるのだ。

 

「このバスはどこそこの方向にゆくでしょうか?」

 

「なんというバス停で降りればよいでしょうか?」

 

「そこまで料金はいくらかかりますか?」

 

バスの運転手は笑顔でこう答える。

 

「そこにゆくんだったら次のバス停で降りるといいよ、でも次のバス停から一気に料金が跳ね上がるんだよね。」

 

さっきまで740円だった料金が、次の停車場所の名前を車内放送が読み上げた途端に10,310円に切り替わった。

 

バスの運転手はこう続ける。

 

「でもそのバス停の前でおろしてあげるよ、だからその前までの料金をはらってね。」

 

運転手はバス停のない場所でバスを止め、ぼくをおろしてくれる。

 

バスを降りた場所は見慣れているような景色の場所で、時間はもう日が暮れた後だった。ぼくは740円をバスの料金箱に入れてバスを降りる。すると運転手がぼくに話しかけてくる。

 

「左と右と、どちらの道を通って家まで帰るんだい?」

 

ぼくの目の前には、人がまばらに歩いている街灯の灯った左の道と、レンガ造りの大きな建物に囲まれたまったく街灯の灯っていない真っ暗な右の道がのびている。

 

「こっちからゆきます、どうもありがとうございました。」とぼくがこたえて右の真っ暗な道に向かおうとすると、運転手はすかさずこう返してくる。

 

「そっちの道を選ぶのは危ないからよしたほうがいいよ。」

 

すでに歩き出していたぼくはその言葉に反応してビクリとなり、思い直して人通りのある明るい左の道を歩き出す。

 

バスはバックしながら別な道に走り去る。

 

ぼくがその明るい道を歩いてゆくと、数十メートルも進まないうちに、左の道と右の道は合流して、何の変哲もない明るくも暗くもないひとつの道になっていた。

 

その道はまったく見たことのない場所に続いているような気がして、すごく恐ろしくなって振り返るけれども、そこにはもう、バスも道もなくなっていた。

 

バスから降りなければ、もしかしたら目的地まで辿り着いていたんじゃないだろうかと、すごく不安になって泣きそうになるけれど、仕方がないから見知らぬ夜の道を歩き出す。

 

あのバスに最後まで乗っていたら、本当はどこにたどり着いていたんだろう。

 

お題「最近見た夢」

 

 

 

夢判断 上 (新潮文庫 フ 7-1)

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夢判断 下 (新潮文庫 フ 7-2)

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月白貉