ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲ことパトリック・ラフカディオ・ハーン (Patrick Lafcadio Hearn)が、自らの感覚で古き日本を歩きまわって独自の感性で見聞を広めたように、遠く故郷を離れてあてどなき夢想の旅を続けるぼくが、むじなと、そしてラフカディオと一緒に、見たり聞いたり匂ったり触ったりした、ぼくと、むじなと、ラフカディオの見聞録です。

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三瓶山の殺生石

江戸時代に書かれた松江松平藩の地誌「雲陽誌」の山口の項に以下のような記述がある。

 

と、唐突に話はそれるのだが、ここで少しぼくの読んでいる「雲陽誌」について書いてみようと思う。

 

ぼくのいま参考にしているのは昭和四十六年に発行されている雄山閣版の「雲陽誌」で、前書きによると「雲陽誌」原本ではなく、黒沢長尚撰で享保二年に刊行した「雲陽誌」の写本二十五冊によっていると書かれている。

 

雲陽誌

 

「雲陽誌」原本の著者については、黒沢石斎(1633年〜1678年)ということになっているらしい。

 

徳川初中期の松江藩儒者で、名は弘忠、字は有隣、石斎はその号、また玉峰とか節香堂の別号ありと記述されている。ただ前書きには、「雲陽誌」が石斎の著作だとみることはむずかしく、写本に記されているように石斎の子孫だと思われる黒沢長尚の著述だと書かれている。

 

県立図書館の検索データベースに「雲陽誌 写本」という項目があったので、閲覧申請をしてその写本の一部と本書を比較して閲覧してみたが、読んだ部分においてはおおよそ同じ記述が書かれているように見えた。しかし前書きには、本書「雲陽誌」は島根県内務部刊行の活字本によっていて、その底本は必ずしも写本二十五冊の大本にはよっていないと書かれている。原本の体裁について具体的に知りたい人は、写本二十五冊によられるべきで、その煩いをいとってはならない、と。ということは厳密には写本の記述とは部分的に異なっているということなのであろう。前書きには、その一例が記述してあるのだが、そのことに関してはまた別の機会に触れることとする。

 

さて、より道が長くなってしまったが今回の本題に話を進めようと思う。今回はどちらかというと備忘録および今後の散策予定といった趣のものを記そうと思っている。というわけで再び、「雲陽誌」の山口の項に話を戻す。

 

山口という地名を巻末の主要新旧地名対照表で見てみると、「太田市山口町」と書かれている。

 

ぼくの知っている現在の地名は「大田市」だと思うのだが、旧名は「太田市」だったのか、あるいは活字の印刷ミスなのか定かではない。まあそれはさておき、ぼくの暮らしたことのある大田市の記述に以下のようなおもしろいものを発見したので引用してみる。

 

三瓶山 【風土記】に載る佐比賣山是なり、雲石二州の境なり、古は飯石郡に見えたり、今神門郡に入世俗此山を日本第五の高山なりといふ、傍に殺生石あり其石に觸る時すなはち鳥獸皆死す、人民相近かす、俚民鳥獄といふ、

 

三瓶山

 

大田市に暮らしている時、三瓶山には何度か訪れたが残念ながら本格的に散策する機会を持たなかった。そのため三瓶山にまさか殺生石が存在することはまったく知らなかったし、耳にしたこともなかった。

 

殺生石といえばご存知の方も多いと思うので、あえてここでの詳細な説明は避けるが、まあ簡単に言うと九尾の狐が封じられて石になったものである。

 

妖怪絵師として有名な鳥山石燕も「今昔百鬼拾遺」にこう記している。

 

殺生石ハ下野國那須野にあり老狐の化する所にして鳥獸これに觸れば皆死す應永二年乙亥正月十一日源翁和尚これを打破すといふ

 

殺生石の言い伝えによれば、殺生石の欠片は各地に飛散したとあり、いろいろな場所にその言い伝えの残る石が存在するのだが、まさか三瓶山にもあるとはまったく知らなかった。「雲陽誌」の記述を読む限りだと完全に伝説の殺生石と同様のものなのでおもしろい。まあ当時の言い伝え遺物の流行り的な流れなのだろうとは思うものの、やはり心惹かれてしまうのが世の常である。 

 

少し前ならさっそくフィールドワークに乗り出すところであるが、いまは三瓶山からはるか離れた地にいるために、なかなかそういうわけにもいかず涙をのんでいる。いずれ機会があれば是非にも調査にのり出したいと思う今日このごろである。

 

今回は実物も探索もなしということで、心の準備段階なのだが、わくわく感としてはここに書き記さないわけにはゆかなかったという、自己満足的投稿である。 それにしても「雲陽誌」はおもしろい。

 

 

 

三瓶山の史話 (1967年)

三瓶山の史話 (1967年)

 
週刊 ふるさと百名山 50号 氷ノ山・三瓶山

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月白貉