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ぼくと、むじなと、ラフカディオ。

かつて小泉八雲が自らの感覚で日本を歩きまわって見聞を広めたように、故郷を離れて旅を続けるぼくが、ぼくの感覚でその土地を歩き回って、見たり聞いたり嗅いだり触ったりした、ぼくの見聞録です。

城山稲荷神社にある石狐たちの聖域

松江百景

小泉八雲ことラフカディオ・ハーンが足繁く通ったと言われる城山稲荷神社。

 

徳川家康の孫にあたる松平直政が藩主としてここ松江に入国した翌年に、藩内の安穏と繁栄を祈念して、かねてより信仰のあった稲荷大神(宇迦之御魂神)を、出雲隠岐両国の守護神として祀ったのがはじまりの神社だそうである。

 

城山稲荷神社

 

また別の言い伝えによれば、

 

ある日、直政の枕元にひとりの美しい少年が現れ語ったことが、この神社を祀った理由だとも言われている。

 

その美少年は直政にこう言ったそうだ。

 

「私は貴方様にふりかかるたくさんの災厄からその御身を守護するために、越前北ノ荘藩主であり貴方様のお父上でもあらせられる結城秀康様のお館からこの地にやって参りました稲荷真左衛門と申すものです。しかし身を寄せる場所がなく、差し当たりまして普門院の寺内にやむなく逗留させて頂いております。そこでお願いがございます、もしこの松江城内に私の住む場所をおつくり下さいましたなら、城内の建物、ご城下の家々、さらには江戸にある貴方様のお屋敷までもいっさいの火事からお守りいたしましょう。」

 

城山稲荷神社

 

それを聞いた直政は、それじゃあ稲荷神社を祀ろうじゃないかというかということになったという話である。

 

以来この稲荷神社は火伏せに霊験あらたかだという評判となり、狐の絵が書かれた火伏せの御札が大流行して城下町のどの家々にもこの札が貼られていたそうである。

 

小泉八雲もこの狐の札がたいそう気に入ったようで、「これが松江の唯一の防火設備である!」と説明書きをつけて大英博物館とイギリス・オックスフォード大学のピット・リヴァーズ博物館に送っている。

 

城山稲荷神社

 

ぼくも東京に住んでいる頃は、部屋の台所に火伏せの御札を貼り付けていた。

 

近所の鬼子母神でいただいてきた三宝荒神の御札である。だからそこに住んでいる間に、火に困らされたことはまったくない。そういう信仰はなかなかどうして大切だなあと思っている。

 

城山稲荷神社

 

さて、この神社は観光案内にもどかんと乗っているとても有名な場所なので、わざわざ紹介するほどのことなんてないであろうと言われそうだが、ぼくの好きな場所はこの神社の最深部、林の中にひっそり隠れている石狐たちの荘厳な墓場のような場所である。

 

城山稲荷神社

 

ぼくが神社仏閣をおとずれる際にいちばん楽しみにしているのは、その裏側の空間である。

 

まあすべてがすべてそこに行けば劇的なものを発見できるとは限らないのであるが、この城山稲荷神社の奥にある異界のような空間は一見の価値ありでとてもおもしろい。

 

おそらくは使わなくなった古い社や鳥居、そして石狐たちを放置してあるのだと思うのだが、何やらそこには大いに物語性というか、秘密の息吹のようなものが感じられてとても神秘に満ち溢れている。

 

城山稲荷神社

 

土に埋もれた小さな石の社の前には木製の朽ちかけた鳥居、そしてその奥には何匹もの崩壊した石の狐たちが身を寄せ合ってかたまっている。稲荷神社の裏手にはよくこういう光景が広がっていることが多いのだが、この場所ほど心ときめく場所はそうお目にかかれない。さながらジャングルの中に隠された古代遺跡のような様相を呈している。

 

城山稲荷神社

 

ちなみにこの神社の裏手には「鎮守の森」と名付けられた遊歩道があるのだが、

 

その遊歩道沿いにまでこの聖域は達していて、石の狐たちがゴロゴロ寝転んでいるのも、また見どころである。

 

城山稲荷神社

 

どんなに知り尽くされた場所でも、たくさん楽しみは隠されているということだ。ちなみにこの城山稲荷神社は少し高台にたてられているのでなかなか空気感もよろしく、ほかにも見どころはたくさん存在するので、最深部の石狐たちの聖域を見に行くついでにもでもゆっくり堪能していただきたいスポットである。

 

城山稲荷神社

 

ぼくは暇があるとよくこの聖域を見にゆくので、もしかしたらぼくがいるかもしれないし、真夜中に訪れれば、もしかしたら小泉八雲の亡霊がいるかもしれないから。

 

城山稲荷神社

 

あ、今度は真夜中に行ってみよう、絶対おもしろいはず。でも神社は時間帯を間違えると魑魅魍魎が跋扈するので、気を付けていただきたい。

 

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月白貉